小売店様 煎り酒案件
お客様で日本の伝統食品を見直すプロジェクトが立ち上がり開発依頼を承った。
定義やベンチマークのない商品開発のため鰹節屋としての開発提案力が求められる挑戦しがいある案件でした。
幻の調味料?
以前から「いりざけ」の存在は知っていましたが、「むかしの調味料」という程度。早速、「いりざけ」について調べました。
室町時代や江戸時代から使用されていたようですが、醤油が普及するにしたがって姿を消してしまった幻の調味料であるとのことでした。簡単に言うと「梅干と花かつおや昆布をお酒で煮詰めて作ったもの」なのですが、日本料理店で板前さんが料理に使用している話はあるものの、古くから商品として造り続けてきた会社は見当たりません。
独自視点で開発し現代になって発売されている商品はいくつかございましたが味は様々。お客様からのご希望は醤油を使用せず使用する原料は全て国内製造の原料を使用することでした。
どんなも商品に仕上げていくか?
当社は鰹節をつくっていることを切り口としてだしに関わる加工製品を製造販売する会社です。
だしの業界は原材料となる節をつくる会社と節を仕入れて加工する会社と大きく二つに分かれています。
弊社は冷凍カツオを自社で処理して鰹節をつくり、それを利用して加工製品をつくる、という両方の機能を持っています。
異なる管理が必要になる水産加工品と加工食品を製造している珍しい会社です。
だしは料理の裏方であり食材となる食べ物が料理の主役です。
だしにこだわっておいしく料理を食べて楽しい時間を過ごしてもらえるような「いりざけ」にしていこうと考えました。
味づくりが難しい案件 繰り返し試作
だし原料には鰹節の産地である焼津製造の鰹荒節、北海道利尻産昆布を使用。梅干、日本酒の独特の強い風味に負けない配合にするには難しさがあります。
先味で鰹節のしっかりとした風味を感じ、後味で昆布のうま味を感じる配合を目指して進めました。
主となる原材料の梅干、日本酒、鰹節、昆布は、それぞれがとても特徴のある味を持っています。
製造過程で風味が変わったり消えたり思い通りには行かず調整はとても難しいものでした。
僅か数ヶ月の開発期間の中で約20種類の試作を繰り返しましたが、そこに行くまでかなりのレシピの検討をしました。
最終的には、さわやかですっきりした梅干の風味の中にもしっかりとしただしのうま味を感じることができる調味料になり、そのままかけても、食材の下味にも、煮物・汁物の味付けにも、他の調味料と混ぜても、なんでも使用できる「煎り酒」が出来ました。
余談ですが・・・
試作も良いご評価をいただき開発も終盤に差し掛かったところで、一段グレードを上げるべくコンセプト変更の依頼がありました。
これにより、メインとしていた原材料の一つを配合から外すことになり、味と品質の両面を根本から組み立て直すという大混乱がありました。
新たな原材料を配合し試作を繰り返すも最初の開発品からの方向転換は簡単には進まずとても焦ったことは思い出です。